優勝争いをしている時、選手を緊張状態に誘うもの。それは状況によって様々です。 良い流れでバーディーがきたとき。一緒に回っている選手がバーディーを取ったとき、もしくはボギーを打ったとき。スコアボードを見たとき。等々。 優勝が近くに感じられてしまったとき、選手の中で何かが生まれ、それが良い方へ導いてくれるのか、悪い方へ引きずり込まれるのか、運命を分けてしまう可能性が出てきます。
コースと自分との戦いとほぼ割り切れてしまう選手ならば、キャディは驚く程簡単です。 なぜなら…、何もしなくて良いから。 優勝争いをするということは、選手がそれだけ調子が良いということ。集中力も増して、いつも以上にコースも見えているものです。 「ゾーンに入る」という表現をよく聞きますが、優勝争いをしているとき程そうした何をしても上手くいくような集中ができている状態に入りやすいのも頷けます。 私の場合、選手の目が何もかも見透かしているような、そんな澄んでいるけれども厳しい眼差しになったとき、「入った」と判断します。集中できているかどうかというのはテレビを通してさえも感じられるものです。 その集中力の鋭さに、近くにいると鳥肌さえ立つことがあります。
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朝2004年東海クラシックにて今井克宗プロ ラウンド中の集中力は素晴らしいです。 |
そういった状態になってしまえば、キャディは空気のような存在であることが求められます。いつものリズムでいつも通りの言い方でコース状況の説明と指示を出し、何気なく水分を取ってもらいます。 キャディに出来ることはいつも当たり前にしていることだけなので、特に何もしなくて良いという感覚になります。
しかし、同じようなリズムを心がけていることで、選手の変化に気づきやすいのも事実です。 選手のリズムが早くなってきているようであれば、選手に気づかれないように歩くリズムを少し整えるように仕組んでみたり、水分補給のタイミングを少し変えてみたり。 一気に状態を変えようとせず少しずつが基本です。 明らかに悪い流れが来てしまっている場合の中で、プレーに影響を及ぼすような緊張感があるときには、ショットを打つ前に水分を取るようにするだけでも、効果が期待できます。 会話をして、少し気持ちをゴルフから反らすことも大事な選択肢の一つです。 ただし、今まで書いたことは私の持っている選択肢の一部に過ぎません。 プロキャディは自分なりの選択肢をたくさん持っているものです。
さて、良い集中の状態にあるときというのは、ちょっとした事には動じない心の状況でありながら、些細なことで集中が乱されてしまうものであるというのも、不思議な話です。
何かを少し意識してしまったり、何らかの理由でリズムが乱れてしまったり、そういった些細なことで、流れが一変してしまうもの。 そのため、緊張感をより一層盛り上げてくれるギャラリーの声援や大歓声が優勝争いを作り上げているように感じられる時があります。 優勝争いをしていて悪い流れの中を必死で耐えている時に、前の組がプレーしているはずのホールで大歓声が沸きあがったとしたら…、落ち着いているつもりでも心に波風立ててしまう選手もいるはずです。
逆に、優勝する選手はその歓声を受けて、一心に突き進んでいくのです。 |