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プロキャディ 小田美奈コラム
毎週月曜日更新

第195回 キャディと差別

2010.7.26

もう何年も前の話ですが、かの有名なタイガー・ウッズ選手が日本ツアーに参戦した時こと。
ウッズ選手のキャディは、その大会で指定されていたツナギを着用しませんでした。
始めの年はその様子をなんとなく不思議に思っていただけでしたが、翌年にも同大会で着用しなかった姿を見て、ひどく違和感を覚えました。

なぜ、彼は着用しなかったのか。
日本ツアーを見下していたのか、ツナギに対する人種差別的な意味を知っていて拒否したのか、U.S.ツアーのように着用すればいくらか支給されるという形でなく、無料で着用することに納得がいかなかったのか・・・
ひょっとすると、関係者が誰もツナギを勧めなかったのかもしれません。

残念ながら、本当の理由は彼自身に聞いてみなければわかりません。
私が感じた違和感はキャディに対するものではなく、ウッズ選手のキャディなら着用しなくても許されるのかという点です。

誰でもプレーできる日本は幸せだな~と思います。でも、もう少し安ければ…ですね。
誰でもプレーできる日本は幸せだな~と思います。でも、もう少し安ければ…ですね。

例えば、私がそこでツナギの着用を拒否したら、私自身が多くの人から注意されるだけでなく、選手もなんらかの注意を受けることになるでしょう。レインウェアを上に羽織っただけで注意されるのですから、「着用しない」ということが許されないのは明らかです。
ツアーのことを考えれば、大事なスポンサーさんの意向を大切にしなければいけないことは理解しているので、できる限り協力的でありたいとは思っています。
ただ、「ウッズ選手のキャディだから許される」というような差別を感じて納得がいきませんでした。

ゴルフというスポーツは、人種差別の問題が大きく残るスポーツです。
他のスポーツでもそういった問題に関わる話は多く耳にしますが、ゴルフの場合は選手とキャディとの間に主従関係が生じることから見ても、そうした問題は複雑です。
キャディという存在は、今でこそ「選手にとって唯一助言できる大事な存在」として認められるようになってきていますが、U.S.ツアーで黒人のキャディが依然少ないのは、キャディとして起用することを差別ととられる可能性があるからではないでしょうか。
本来、キャディの仕事を本職としていたのは黒人だったのに、トーナメントは白人キャディばかりというのは変だと思いませんか?
マスターズや全米オープンなどについてちょっと調べれば、人種差別に纏わる話がいくらでも出てきます。
全英オープンを主催するR&Aの役員が差別的な発言をしたのも、まだ最近の話です。
タイガー・ウッズ選手がプロになってから、少しずつ変化が現れてきているようではありますが、未だに黒人がプレーできないゴルフ場があることも事実です。

キャディが着るツナギには人種差別に関わるような説も耳にします。
例えば、それを憂慮してウッズ選手のキャディがツナギの着用を拒否したのなら納得できるのですが、どちらかというと逆の理由のような気がしたのは私が卑屈だからなのでしょうか。
しかし、そのお陰で「キャディがツナギを着用する意味は何か?」という問題を日本に残して行ってくれました。
あれからもう何年も経ちました。
「キャディは選手の付属品」という時代は、そろそろ幕を下ろしても良いのではないでしょうか。

 
次回更新予定:2010年8月2日

第194回 ツナギの着用について 2010.07.19
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